ニコラさんたち、これから住むとこに入る家具がこことおんなじだって聞いて固まっちゃったんだよね。
でもそのまんまにしとく訳にはいかないでしょ?
だから僕、どうしよっかなぁって考えたんだ。
「あっ、そうだ! ご飯を食べに行けばいいんだ」
もともとここに来たのだって、僕が行かないとニコラさんたちがご飯食べられないって思ったからだもん。
それにさ、家具と違ってご飯はご飯だから、きっとお姉さんたちが泊まってた宿屋さんとそんなに変わんないと思うんだよね。
だから僕、固まってるニコラさんの袖を引っ張って食堂に行こって言ったんだ。
「ねぇ、ニコラさん。司祭様が先に行ってるから、食堂に行ってご飯食べよ」
「えっ? ええ。司祭様が先に行っているのなら、待たせてはいけないわよね」
そしたらさ、お爺さん司祭様が待ってるんだったら早く行かないとねって、ニコラさんはユリアナさんたち二人にも声を掛けてくれたもんだから、僕たちはご飯を食べに食堂に行く事になったんだ。
「なっ!?」
でもね、何でか知らないけど、食堂の入口んとこまで行ったらニコラさんたちがまた固まっちゃったんだよね。
「どうしたの、ニコラさん? 早く入ろ」
「るっ、ルディーン君。本当にここに入るの?
「うん、そうだよ。だって晩御飯、ここで食べるよって宿屋の人に行ってあるもん」
そりゃあお部屋で食べる事もできるけど、今日はここで食べるよってお部屋を取る時に言ってあるからね。
今日はここで食べないと、晩ご飯は無しになっちゃうんだ。
「あっ、司祭様だ」
もしそうなると困るからってニコラさんの袖を引っ張りながら食堂の中を見てみると、窓際の6人掛けのテーブルの所にお爺さん司祭様がいたんだよね。
だから僕、お爺さん司祭様の床に走ってったんだ。
「司祭様、いっぱい待ってた?」
「いや、わしも部屋で少しくつろいでからここに向かったからのぉ。それほど待ってはおらん」
「そっか。よかった」
僕、ニコラさんたちのお部屋でお話してたから、もしかしたらお爺さん司祭様を待たせちゃったかも? って思ったんだよね。
でも笑いながら待ってないよって言ったから、僕はほっとしたんだ。
「ところでルディーン君。娘らとは一緒ではないのかな?」
「ニコラさんたち? ううん、一緒に来たよ」
そう言って振り向いたんだけど、そこにはだぁれもいなかったんだよね。
だからきょろきょろと周りを見渡したんだけど、
「あっ、まだあんなとこにいる!」
そしたらニコラさんたちは、まだ入り口んとこにいたんだよね。
一緒に入ってくればよかったのに。
そう思った僕は、連れてくるために今度はニコラさんとこに走ってったんだ。
「もう! 司祭様があそこにいるでしょ? 何で僕と一緒に来なかったの?」
「何でと言われても……」
そう言って食堂の中を見るニコラさん。
だから僕、中になんかあるのかなぁ? って思って、おんなじ方を見たんだよ。
そしたらさ、その先には給仕をしてくれるお姉さんが立ってたんだ。
「あのお姉さんが、どうかしたの?」
「いや、そうじゃないけど……こんな格好で中に入って、怒られたりしないかしら?」
そう言って自分たちの着ているのもを見下ろすニコラさんたち。
でもね、来てる福はどっこも破れてないし、武器や防具もちゃんと外してるから、僕はお姉さんたちが何でこんなこと言ってるのか解んなかったんだよね。
「なんで? どっこもおかしくないよ?」
「でもこの食堂、私たちが泊まっている部屋より豪華だし、こんな服を着てはいる人なんていないでしょ?」
ニコラさんにそう言われてもういっぺん食堂の中を見てみたんだけど、そう言えばここ、きれいなお花がいっぱい入ったおっきな花瓶が何個か置いてあったり、壁にもいろんな色に染められた絹の飾り布が垂れ下がってたりしてるんだよね。
それにテーブルや椅子だって、天板の横っ側や背もたれ、それに足にある飾り彫りされてるとこの一部が金箔で飾ってあったりして、お部屋にあるのよりずっと豪華なんだ。
そっか、だからニコラさんたちは、ほんとに入っていいのかなぁって思ったんだね。
でもさ、そんな心配しなくってもいいんだけどなぁ。
「大丈夫だよ。だってお父さんだって、同じような格好して、ここでお酒飲んでたもん」
「えっ? ルディーン君のお父さんも?」
「うん。前に来た時にね、冒険者ギルドに頼まれて魔物をやっつけに行ったんだ。でね、お父さんは帰ってきてからすぐに、お風呂にも入らないでここでお酒飲んでたもん。だから大丈夫だよ」
あの時は家族全員できてたでしょ?
だからご飯はこの食堂で食べたんだけど、僕とお母さんは食堂に行く前にちゃんとお風呂に入ったのに、お父さんはいっぱい働いたからお酒飲むんだって言って、ぱっぱって濡らした布で体をふいただけで食堂に行っちゃったんだよね。
でね、僕たちが来た時にお父さんはちゃんと中に入ってお酒飲んでたもん。
ニコラさんたちはその時のお父さんとおんなじような格好だから、入ったって怒られるはずないんだ。
「本当に大丈夫かしら?」
「うん。大丈夫だから、一緒に行こ」
そのお話をしても、ニコラさんたちはまだちょっと心配そう。
でもここにずっといる訳にはいかないから、僕はニコラさんの背中を両手で押して、食堂の中に入ってったんだ。
「おお、やっと来たか」
ニコラさんが入ったもんだから、ユリアナさんたちもちゃんとついて来てくれたんだよ。
そしたらそれを見たお爺さん司祭様が、にっこり笑いながら早く座りなさいって。
「でっ、でも……」
なのにニコラさんたちは、椅子を見てまた固まっちゃってるんだ。
そりゃそうだよね。
だってお部屋の椅子にも座れなかったのに、ここのはもっと凄い椅子なんだもん。
でもね、
「そこでずっと立っておっては、給仕の者や他の客に迷惑であろう。それにおぬしらが座らねば、わしも酒を注文する事が出来ぬではないか」
「「「はい!」」」
お爺さん司祭様にそう言われちゃったもんだから、お姉さんたちは大慌てで椅子に座ったんだ。
少しだけいつもより短めですが、キリがいいので今日はここまでで。
部屋の家具に恐れおののいていたお姉さんズ、なのにそれよりも豪華な食堂に連れてこられてしまいました。
おまけにルディーン君と違ってお爺さん司祭様ははっきりとものを言いますから、ずっと椅子に座らずにいるなんて事、許してはくれません。
でもまぁ、そのおかげでこれからは少しだけ、豪華なものに触れるのを怖がらなくなるんじゃないかな?
因みに彼女たちは知らないのであまりそこに触れていませんが、飾り布を壁に垂らすのって貴族かよほどの金持ちだけなんですよね。
だからこれがあるだけで、その部屋の格式が一つ上がるんですよ。
それに飾られている花だって、食料を作る事ができる畑をわざわざ使ってまで育てられている貴重なものなので、実を言うと富の象徴だったりします。
ルディーン君は無意識にそれらを注視しましたが、ニコラさんたちはそこに置かれたテーブルや椅子、それに給仕の着ている服だけを見て震えあがっていたんですよね。
もし知ってたら、たとえルディーン君に背中を押されたとしてもけして入らなかったでしょう。
無知に助けられる事、あるんですねw